日本の技能実習制度は、外国人労働者の受け入れと技能習得を両立させる枠組みとして、多くの関心を集めています。この記事では、2025年の最新データをもとに、技能実習生の受け入れ人数の推移やその分布状況を詳しく紹介します。
さらに、技能実習制度の概要や特徴、受け入れの課題、そして解決策についても解説します。
技能実習制度とは
技能実習制度は、1993年に創設されました。その目的は、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(以下「技能実習法」)第一条により、以下のように定められています。
「技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的とする」
技能実習制度は、外国から来日した技能実習生が日本の企業や団体で技能を習得するための制度です。そのため、技能実習は「労働力として雇用するための制度ではない」ということが明確に定められています。技能実習生は、一定の期間日本で研修を受けた後、母国に帰国し、習得した技能や知識を活用してもらうことが想定されています。
技能実習制度の特徴
技能実習制度にはいくつかの特徴があります。
1. 最長5年の在留期間
技能実習生は最長で5年間日本に滞在できますが、通常は1年から3年程度の研修期間が一般的です。
2. 技能の修得を目指す制度
技能実習生は日本での研修を通じて特定の技能や知識を修得することを目的としています。
3. 技能実習生の保護
技能実習法には、技能実習生の適正な扱いや保護に関する規定が含まれており、違反した場合には罰則が科されます。
「技能実習制度」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

技能実習制度と特定技能制度の違い
技能実習制度と特定技能制度とは、異なる目的や制度設計を持っています。
1. 目的の違い
技能実習制度は技能の習得と開発途上国への技術移転を目的としていますが、特定技能制度は日本国内の人材確保と特定分野での外国人労働者の受け入れを目的としています。
2. 在留期間の違い
技能実習制度では最長5年の在留期間が設けられていますが、特定技能制度では特定技能2号を取得すると更新する限り上限なく在留が可能となります。
3. 転職の可否
技能実習生は基本的に研修先を変更することができませんが、特定技能保持者は転職が可能です。
「技能実習と特定技能の違い」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

技能実習生とは
技能実習生とは、外国から来日し、日本の企業や団体で特定の技能や知識を習得するための研修生を指します。
1. 来日目的
技能実習生は、主に開発途上国や発展途上国から日本にやって来ます。彼らは日本の企業や団体での研修を通じて、特定の技能や知識を身に付け、帰国後にその技能を活用することが期待されています。
2. 在留資格
技能実習生は、日本に滞在するために特定の在留資格を持ちます。技能実習1号、技能実習2号、技能実習3号の3つの在留資格があり、それぞれ修得や習熟、熟達を目指す活動を対象としています。
3. 技能研修内容
技能実習生は、受け入れ企業や団体で特定の技能や知識を学ぶための研修プログラムに参加します。これには実地作業や実務経験のほか、日本の言語や文化に関する教育も含まれる場合があります。
4. 期間
技能実習の期間は、在留資格に応じて異なります。技能実習1号は通常1年または6か月の研修期間が与えられますが、技能実習2号や3号を取得すると最大で5年間の滞在が可能です。
5. 帰国後の活動
技能実習終了後、技能実習生は母国に帰国し、習得した技能や知識を活かして地域や産業の発展に貢献することが期待されます。技能実習制度は、国際協力の一環として、開発途上国の人材育成を支援することを目的としています。

【2025年最新】技能実習生の人数推移と現状
「技能実習」の在留資格を持つ外国人労働者は、「専門的・技術的分野の在留資格」「身分に基づく在留資格」の次に3番目に多い在留資格です。
令和6年10月末時点で、470,725人に達しており、これは全体の20.4%に相当します。前年比では58,224人(14.1%)増加しており、その受け入れ数は着実に増え続けています。

(出典)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
【業種別】技能実習生の人数の推移
技能実習生の受け入れは業種ごとに異なり、主な業種は農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属、その他の7つの業種に分かれています。
令和6年10月時点での職種別技能実習計画認定件数を見ると、建設関係の職種が最も多く、全体の25.1%に相当します。
次いで、食品製造関係の職種が20.2%、機械・金属関係の職種が11.9%です。
また、農業関係は6.6%で、繊維・衣服関係は5.1%です。

これらの数字から、建設、食品製造、機械・金属関係の職種が技能実習生の受け入れにおいて特に大きな割合を占めており、その需要の高さがうかがえます。また、農業や繊維・衣服関係も一定の割合を占めていますが、他の業種と比較して受け入れ数がやや少ない傾向にあります。
建設関係:25.1%
食品製造関係:20.2%
機械・金属関係:11.9%
農業関係:6.6%
繊維・衣服関係:5.1%
【国別】技能実習生の人数の推移
技能実習生の国籍や地域別のデータを見ると、最も多いのはベトナムで、その割合は全体の4割以上になっています。ベトナムが40.6%を占めており、次いでインドネシアが26.1%、フィリピンが9.3%です。
他の国や地域もそれぞれの割合があり、ミャンマーが9.2%、中国が5.6%、カンボジアが3.0%、タイが2.6%、ネパールが1%、その他が2.7%となっています。
_令和6年度外国人技能実習機構業務統計-概要.png)
ベトナム:40.6%
インドネシア:26.1%
フィリピン:9.3%
ミャンマー:9.2%
中国:5.6%
カンボジア:3.0%
タイ:2.6%
ネパール:1.0%
その他:2.7%
【都道府県別】技能実習生の人数の推移
_令和6年度外国人技能実習機構業務統計-概要.png)
愛知県が最も多く、その割合は8.6%に達しています。
次いで埼玉県が5.4%、千葉県が4.8%と続きます。
また、東京都と大阪府が4.7%となっています。
このように、これらの都道府県では外国人技能実習生が多く受け入れられており、地域経済や産業に対して重要な役割を果たしています。
▼外国人技能実習生の多い都道府県トップ10
愛知県:8.6%
埼玉県:5.4%
千葉県:4.8%
東京都:4.7%
大阪府:4.7%
北海道:4.2%
神奈川県:4.2%
福岡県:4.1%
静岡県:4.0%
茨城県:3.9%
技能実習生受け入れの課題
技能実習生受け入れには多くの課題があります。最後に、いくつかの課題を紹介します。

外国人技能実習生が引き起こす問題
失踪
技能実習生の失踪は、母国からの労働者が技能実習期間中に突然姿を消す現象です。失踪率は増加傾向にあり、主な原因は不満や収入の不足などです。特に、失踪者の多くが建設関係の仕事に従事しており、収入や労働条件に不満を抱いているケースが目立ちます。
途中帰国
技能実習生が途中で母国に帰国するケースもあります。主な理由は家族の病気や不幸などの身内の事情です。また、技能実習2号の更新に必要な試験に合格できず、資格の更新ができない場合も途中帰国の要因となります。
犯罪関与
技能実習生が犯罪に関与するケースも報告されています。特に、経済的な困窮から窃盗などの犯罪行為に走るケースが目立ちます。技能実習生同士が仲間関係を築きやすい環境にあり、それが犯罪に関与する要因となることがあります。
受け入れ企業が引き起こす問題
低賃金、残業未払い
受け入れ企業が法令を遵守せず、技能実習生に対して低賃金を支払ったり、残業代を支払わなかったりする問題があります。労働基準関係法令違反率が高く、労働条件が悪化することが失踪や途中帰国の原因となっています。
実際に、令和6年度に技能実習生から受ける相談で最も多かった内容が「賃金・時間外労働等の労働条件に関すること」で2,943 件の相談がありました。

次いで、「実習先変更に関すること」が2,462件と、賃金や労働環境に関する問題から実習先の変更を希望する技能実習生が一定数いることが考えられます。
ハラスメント
受け入れ企業が技能実習生に対して脅迫や暴行などのハラスメントを行うケースもあります。言葉の壁や文化の違いによって、問題が明らかになりにくいことがあります。また、労災隠しや適切な治療を受けさせないケースも報告されています。
2027年から育成就労制度に変更へ
技能実習制度が2027年に「育成就労制度」に変更されることが決定しています。
技能実習制度の目的は、日本の専門技術や知識を習得し母国に持ち帰る「技術転籍」を通した国際貢献です。
しかし、実態として技能実習生が国内の人手不足を補う労働者としての役割を果たしており、本来の目的から乖離が生じているため、国内の労働力の確保を目的とする育成就労制度に改正されることになりました。

外国人材確保に向けた労働環境の改善
厚生労働省の「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」によると、少子高齢化による労働人口不足によって、2040年には1200万人以上の規模の人手不足になることが予測されています。
この労働力不足を補うに当たって外国人材の確保が重要となりますが、人材を確保するためには外国人に魅力的な労働環境の整備が必要不可欠となっています。
しかし、現状の技能実習制度では、実習生の労働環境が問題視されており、転籍ができないことや賃金の未払い問題、ブローカー問題など、実習生の立場が弱い実態が指摘されています。
そうした問題を改善しようと育成就労制度では、転籍の許可や外部監査人の設置義務、キャリアパスの明確化などといった労働環境を改善する内容が盛り込まれる見込みです。
まとめ
技能実習生の受け入れ人数推移や、国別・業種別の割合、そして制度が抱える課題と今後の展望について解説しました。
令和6年10月末時点で技能実習生は470,725人に達し、外国人労働者全体の約20.4%を占める重要な存在となっています。
職種別では建設関係が25.1%と最も多く、国籍別ではベトナムが40.6%で最多となっており、特定の業種や国籍において技能実習生が欠かせない戦力となっている現状がうかがえます。
一方で、失踪や労働環境の問題といった課題も浮き彫りになっており、これらを解決するために2027年からは「育成就労制度」への移行が決定しています。
新制度では、建前上の「国際貢献」から実態に即した「人材確保・育成」へと目的が変わり、転籍制限の緩和など労働環境の抜本的な改善が見込まれます。
受け入れ企業側においては、労働環境の見直しや技能実習生への支援体制の整備が重要です。
具体的には、法令遵守や労働条件の改善を図り、技能実習生が安心して働ける環境を整えることが求められます。
さらに、技能実習生が不安や問題を相談できる仕組みを整備し、円滑なコミュニケーションを促進することも必要です。
そして、仕事内容や労働条件を明確に説明し、技能実習生の理解を深める取り組みを行うことで、受け入れ企業の責任ある受け入れが実現されます。
これらの解決策の実施により、技能実習生の受け入れがより円滑に進み、制度全体の改善が期待されます。

